満を持して、福井真菜「未来のノスタルジー」がリリースされた。福井真菜と聞いても、2025年の日本においてすぐにピンと来る方は多くはないのかもしれない。けれども福井真菜こそまさにピアニズムの真髄を究めた、その演奏を聴くべき傑出したピアニストなのである。
収録されたのはドビュッシー、ラヴェル、ブーランジェ、セヴラックなどのフランスものからスクリャービン、シマノフスキ、リゲティ、そして武満徹までのいずれも特有の色彩を持つ作品たち。それが各々コンセプトを掲げた3枚のアルバムとして纏められている。まずアルバム1は「ジャポニズム」としてドビュッシーとラヴェル、アルバム2は「オリエントと日本」としてスクリャービン、ドビュッシー、シマノフスキ、武満徹、アルバム3は「珠玉の小品」としてドビュッシー、リリ・ブーランジェ、セヴラック、リゲティという構成。19世紀から20世紀に至る名作が今、福井真菜によって21世紀に新たな生命を吹き込まれたのである。
言葉通り福井真菜は、今も、これからも、試行錯誤しながら自らの音楽を追い求めていくに違いない。日本人としてアイデンティティをしっかりと確立し、フランスで過ごした経験を糧としているからこそ、「未来のノスタルジー」で提示した3つのコンセプトが圧倒的な説得力をもって迫ってくる。それは日本とフランスとの文化交流の範疇を凌駕し、音楽という世界原語をもって語り得る人類共通の平和への祈りに通じるものだ。
この音源は、最先端のテクノロジーを駆使して録音されている。それは別項で詳細に触れられると思うが、いずれにしても万華鏡のような色彩が乱舞する福井真菜の「未来のノスタルジー」は、常に傍らに置いて聴いていたい垂涎のアイテムである。